骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-12-24 19:25


サハラ砂漠のトゥアレグ族のウラン被曝は日本の原発再稼働と無関係ではない

バラカン氏×デコート豊崎氏による映画『トゥーマスト ギターとカラシニコフの狭間で』トークレポート
サハラ砂漠のトゥアレグ族のウラン被曝は日本の原発再稼働と無関係ではない
映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』先行上映イベントに登壇したピーター・バラカンさん(左)、デコート豊崎アリサさん(右)

サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグ族のバンド「トゥーマスト」。支配と反乱の歴史を塗り替えるために闘う彼らを追ったドキュメンタリー映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』が2015年2月28日(土)から渋谷アップリンクにてロードショー。公開に先駆けて、先行上映イベントが12月16日(火)、ピーター・バラカンさん、デコート豊崎アリサさんを迎え開催された。

『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』先行上映イベントはこの後、2015年1月16日(金)に、サラーム海上さん(よろずエキゾ風物ライター)と粕谷雄一さん(金沢大学教授)を迎え行われる。

■「原始的で身体が無条件にのってくるリズム」
(バラカンさん)

おふたりはこの日2012年以来の再会。そのときは、アリサさんがサハラ砂漠を旅するトゥアレグ族がニジェールで1000年前から行っている「塩キャラバン」という交易の模様を4ヵ月にわたり取材しドキュメンタリーとして発表した時だったという。

今回のテーマは「『トゥーマスト』を通して見る、抵抗運動と音楽について」。最初にバラカンさんは、「砂漠のブルース」と形容されるトゥアレグ族のサウンドについて「あのリズムは原始的で身体が無条件にのってくる感じがある」と話し、アリサさんは「ラクダに乗っているような感じ」とトゥアレグ族の音楽の力強さを語った。

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映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より

バラカンさんはトゥアレグ族の音楽を、トゥーマストに影響を与えた同じトゥアレグ族のバンド、ティナリウェンを通して知ったという。ティナリウェンのプロデューサーであるジャスティン・アダムズは、ロバート・プラントのバンドメンバーとしても活躍しているイギリス人ギタリスト。マリのトンブクトゥで行われた音楽祭「砂漠のフェスティバル」では、トゥーマストやティナリウェンなどトゥアレグ族のアーティストに混じり、ロバート・プラントも出演したことがあると、バラカンさんはワールドミュージックとしてカテゴライズされがちなトゥアレグ族の音楽とロックとの接点について解説した。

(※この「砂漠のフェスティバル」については『トンブクトゥのウッドストック』というドキュメンタリーが制作され、日本でも2013年の『難民映画祭』で上映された)

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『トンブクトゥのウッドストック』より

フランスの植民地支配により、現在トゥアレグ族が暮らしているのは、ニジェール、マリ、アルジェリア、リビア、ブルキナ・ファソの5ヵ国。バラカンさんが、映画の中で語られている「トゥアレグ族はラジオも新聞も持たないから、音楽を通してメッセージを伝えた」という言葉について触れると、アリサさんは「彼らにとって音楽の歌詞は現状を語るものなので、マリの現状、ニジェールの現状とそれぞれの地域でテーマが変わる。マリのトゥアレグ族は、政府が市民の意見を聞かず鉱山を作ろうとする動きを監視しているので、ニジェールで起きていることを音楽で知るんです」と、音楽が彼らの抵抗運動、そしてコミュニティにとって重要な役割を果たしていることを語った

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映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より

■「反乱ではなく市民運動が生まれている」
(アリサさん)

またアリサさんは今年の9月、今作でも描かれる世界有数のウラン産地・ニジェールのウラン工場に取材を敢行したときにエピソードを話した。

「『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』のなかでも説明されているように、ニジェールはウランを資源に持ち、フランスの原子力企業・アレバ社は40年前から遊牧民たちが住んでいる地域を採掘しています。アレバはフランスの1/3の電気を供給している。そしてニジェールのウランは日本にも輸出されてるのです」

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映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より

アリサさんが福島の原発事故を取材してるなかで、以前から鉱山の近くで生活している遊牧民の友人から去年連絡があって、ウラン鉱山が増えていくなかで問題が続出。現地で草が生えない、奇形の子供や家畜が生まれているという問題が10年ほど前から起きている事実を指摘した。アーリットという町に病院があるもののアレバ社が経営している病院で、「病院に行くにも丸1日かかるし、行っても診療してもらえずアスピリンだけ渡される」状況なのだという。

トゥアレグ族の最後の反乱が始まった2007年頃から採掘が加速し、現在、100以上の場所で採掘が行われている。「鉱山が生まれても遊牧民の収入にはらならい上に、水を含めた環境汚染が進んでいる」と語った。

バラカンさんの「トゥアレグの人たちはその問題がウランと関係していることを知っているのか?」という質問に対し、アリサさんは「遊牧民たちは正直な気性で、家畜と共に生きる文化を持っています。彼らのなかで、放射能という言葉が出てきたのはつい5年前。それくらい鉱山のこと、そこで採掘されるウランのことに関しては隠されてきたんです」と答えた。

またアリサさんはニジェールの人々の暮らしについても「アレバが原子力発電所のためににウランを採掘しているのに、ニジェールの90パーセントの地域には電気が通っていない」と解説。しかもこれだけの犠牲を払っての開発であるにも関わらず、ウラン産業はニジェールの国家予算の4パーセントしか占めず、ニジェールに富をもたらしていないことを指摘した。

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映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より

そしてアリサさんは、トゥーマストのリーダー、ムーサ・アグ・ケイナによる「もう二度と銃は使わない。俺たちの音楽を通してトゥアレグ族の信念を知ってもらえる。俺たちが銃で戦っていたときはトゥアレグ族の状況は知られていなかった。今、やっと俺たちのメッセージが世界に伝わり始めた」という今作の中の言葉をふまえ、「鉱山のまわりで生きるトゥアレグたちから『鉱山を閉めろ』という、反乱ではなく市民運動が生まれている」と最近のトゥアレグの動きについて解説。

続けて、アレバ社の生産するウランが日本の原発で使われていること、そしてアレバ社の代表が取材の際に「311以降ウランのマーケットは61パーセント下がったが、日本の原子力発電所48基が再稼働されればウランのマーケットは上がる」と語ったこと、そしてアレバ社の株の1/4を日本のウラン開発会社が所有していることにも触れ、トゥアレグ族をめぐる問題が、私たち日本人と無関係でないことを力説した。

武器を捨て、音楽で闘うトゥアレグ族についてバラカンさんは「トゥアレグやジプシーなど、文明が発達すると遊牧民にいい顔をしない。でも彼らの要求はただ、1,000年も前から続けていたように、家畜とともに行き来したい、ただそれだけなんです」と語り、トゥアレグ族たちの自由への闘いに賛同を示した。

(取材・文:駒井憲嗣)



ピーター・バラカン プロフィール

1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Beat」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。著書に『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『200CD+2 ピーター・バラカン選 ブラック・ミュージック アフリカから世界へ』(学研)、『わが青春のサウンドトラック』(ミュージック・マガジン)、『猿はマンキ、お金はマニ 日本人のための英語発音ルール』(NHK出版)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)などがある。


デコート豊崎アリサ プロフィール

ライター、ジャーナリスト、写真家。サハラ砂漠の遊牧生活を支援する団体「サハラ・エリキ」主宰。父はフランス人、母は日本人。砂漠でラクダ使いをやりながら、3.11から日本で原発問題等の取材活動を行っている。2014年9月に3週間にかけて、ニジェールのウラン鉱山4ヵ所を巡り、そこに住むトゥアレグ族の実態を取材した。

★サハラ・エリキ http://www.sahara-eliki.org/




【関連記事】
サハラ青衣の遊牧民が奏でる革命の音楽、バンド「トゥーマスト」インタビュー(2014-12-11)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4508/




映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』
2015年2月28日(土)より、渋谷アップリンクにて公開

映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』

監督:ドミニク・マルゴー
出演:トゥーマスト
スイス/2010年/英語/カラー/88分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト


先行上映イベント第2弾

2015年1月16日(金)
アフリカ音楽と「砂漠のブルース」について

ゲスト:サラーム海上(よろずエキゾ風物ライター)、粕谷雄一(金沢大学教授)
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