鈍機翁のため息

(219)間奏 I 民主主義者という差別者

 おひまな読者からお手紙をいただいた。そこにこうあった。「貴殿は反民主主義者なのか」。評論家の呉智英さんのように「私は封建主義者である」ときっぱり宣言したいところだが、そこまで考えが深まっていない。いまの段階では情けないが「半民主主義者」である、と答えるしかない。

 呉さんの民主主義批判については名著『封建主義者かく語りき』(双葉文庫)を参照してほしいが、この中に仏週刊紙テロ事件を考察するうえでカギとなりそうな記述を見つけたので、少し長いが紹介したい。

 《奇妙なことに、たとえば自国の宗教・言語・風習などを基準にして他民族を蔑視することはサベツだという人も、否、そういう人にかぎって、民主主義以外の政治思想をはっきりとサベツするのだ。あたかも、民主主義以外のあらゆる思想は後進的な未開な野蛮な思想であり、最終的には、あらゆる劣等思想は、民主主義という先進思想にたどりつくべきだ、とでも言わんばかりなのである》

 呉さんが指摘する病に骨の髄まで侵された欧米や日本のメディアの大半は、この事件を表現・言論の自由、つまり民主主義の根幹に対するテロであると言い募る。ここにわれわれの傲慢がないだろうか。この事件は、「表現・言論の自由」の名のもとにもっとも大切な存在をレイプされた者による復讐(ふくしゅう)だと私は考える。もちろん、どんな「大義」があろうと、テロという形の復讐はけっして許されない。(桑原聡)

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