抗欝剤を飲みながら闘う米軍兵士たち:身体強化薬も普及

イラクやアフガニスタンに派遣された米軍兵士の多くが、抗欝剤や睡眠薬を服用していると報道されている。湾岸戦争時には無かった習慣という。

Noah Shachtman

「セルフメディケーション[自分で健康を管理し、軽い身体の不調を治そうとすること]は米国文化に浸透している」と指摘するのは、米国防総省国防研究技術本部(DDR&E)の委託による「Human Performance」(人間のパフォーマンス)という研究報告書だ。

とりわけ、その傾向が強いのは軍隊だ。「特殊部隊の兵士の90%、および支援部隊兵士の76%」が、活力増強剤、プロテインパウダー、クレアチン[アミノ酸の一種]、その他の栄養補助剤を使用しているという。

だが軍隊は、化学薬品で身体を強化する以上のことを行なっている。『Time』誌の特集記事「America’s Medicated Army」(薬剤を服用する米陸軍の兵士たち)は、数年に及ぶ海外での警備活動を経て、「イラクに派遣されている戦闘部隊兵士の12%と、アフガニスタンにおける同様の兵士の17%が、抗欝剤あるいは睡眠薬を服用して体調を維持している」と報じている

見方によっては、薬物の処方は取り立てて問題になるようなものではなさそうだ。歴史が示しているとおり、少なくともジョージ・ワシントンがバレーフォージ[ペンシルベニア州東部。米独立戦争中の冬に、大陸軍が野営した場所]でラム酒の配給を命じて以来、軍司令官たちは自分の部隊に、苦痛を和らげる薬物を与えてきた。

第二次世界大戦中にはナチスが、フランスとポーランド侵攻の際に、『Pervitin』として知られるアンフェタミン[覚醒剤の一種]の助けを借りて電撃戦をしかけた。米軍も、ベトナム戦争中にアンフェタミンを使用している。[2003年の過去記事「覚醒剤の助けで戦闘に臨む米軍兵士たち」では、現在の米軍でもアンフェタミンの服用が行なわれていることを紹介している]

だが、抗欝剤の使用はまだ新しい。

(ワイオミング州陸軍に属する医師Joseph Horam大佐によると、)「湾岸戦争のときにはこうした抗欝剤はなかったので、『3度の温かい食事と寝床』という基本的な考え方のもと」、ストレス状態にある部隊には若干の睡眠と休息を与えて、体調が回復するかどうかを確認していた。

「すぐに症状が改善しない兵士は後方に送り、戦域から離す必要があった」という。

だが、2006年のバグダッドにおける最近の任務においてHoram大佐は、イラク人捕虜の見張りにあたっている兵士を治療した。「その兵士はかなり多くの捕虜と接する環境において錯乱状態にあった。捕虜との間に感情的対立を経験していたし、武器を所持する状態だった」と、Horam大佐は述べている。

「だが、その兵士は高度な訓練を受けたチームに属していたので、われわれは彼を失いたくなかった。そこでわれわれは、この兵士にSSRI(『Prozac』や『Zoloft』などの選択的セロトニン再取り込み阻害薬[抗鬱薬])を投与した。1週間で彼は生まれ変わったので、任務に完全復帰させた」

Horam大佐の表現はおそらく、誇張か、偽薬効果のひとつの例だろう。この種の薬品は本当に効き始めるのに通常もっと時間がかかるものだ。

また戦場では、昇進が妨げられることを恐れて、精神的な問題を医師に相談すること自体が少ない、と同記事は報告している。

[日本語版:ガリレオ-向井朋子/福岡洋一]

WIRED NEWS 原文(English)